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堀江くらはが一筆書きするブログ

息抜き中心。一発で書いてドーン。過度の期待はしないでください。

社畜が家畜になる物語

ある朝、不安な夢から目覚めると、K氏は自分が大きな牛になっていることに気が付いた。当たりは真っ青な平原が広がっており、辺りを見渡すと他の牛たちが食事を摂っていた。K氏は自分の足に番号のつけられたタグを発見した。彼は自分が家畜になったのだと気が付いた。

新入社員であるK氏は社畜だった。毎朝8時までに出勤し、深夜1時まで働いた。上司からはいびられ、些細なミスのために1時間近く会議室の冷たい床に正座をさせられた。そんなことがあった日は、怒られた時間だけ残業が伸びたが、残業代がでたことは一度も無かった。
ここ3か月近く休みがなかった。最後に休みが貰えたのは6月末で、それから土曜も日曜も働きっぱなしだった。同居する母は彼の身体を心配してくれたが、K氏はいつも「大丈夫だよ」と答えていた。父が死んでから女手一つで自分を育ててくれた母を心配させたくなかったのだ。

K氏は大学を出たら母を楽にしてやろうと思い、給与面だけで企業を選んだ。大企業からは内定を貰えなかったが、中小企業でありながら月23万も出してくれる会社から内定を貰うことができた。
しかし、会社が求人にだしていた情報は間違いであり、実際の給与は月16万しかなかった。それでもK氏は母を不安にさせたくないと気持ちだけで必死に働いた。

入社から暫くするとK氏は痩せた。母はもちろん、友人からも「無理をするな」と言われた。それでも彼は出勤し続けた。入社からすぐに退職したような人間は、再就職で不利だと考えたからだ。
さらに時間が経つと、駅のホームで電車を待っている時勝手に足が線路へ向かうようになった。そこで始めて、K氏は自分の精神が壊れかけていることに気が付いた。それでも彼は会社を辞めることができなかった。自分の命が危うくなってもなお、自分と母の将来のことを思うと不安で仕方がなく、辞表をしたためる勇気がなかった。

そしてK氏は突然家畜になった。毎日広大な平原で牧草を食べ、眠りたいときに眠る。身体は牧場の管理人が洗ってくれる。たまに牧草以外のエサもくれたし、ビールだって飲ませてくれた。悠々自適な生活だった。母親のことが心配で眠れなくなる夜もあったが、自分にはどうしようもできないことも分かっていた。逃げ出すことも考えたが自分の重い巨体が牧場を囲う冊を飛び越える姿など想像できるはずもなかった。
それでもK氏は今の生活に満足するようになった。確かに母親のことが心残りだったが、今の暮らしは以前のものと比べものにならないくらい良かった。心身ともに健康であり、死にたいと思うようなことは一度もなかった。

ある朝、牧場主がK氏をトラックに載せた。K氏は狭い金属の部屋の中で自分の死が迫っていることを感じていた。凸凹道が平らになっていくのが車体の揺れで分かった。不思議と怖くはなかった。牛になったその日から、今日が来るのは分かっていた。なにより誰のためにやっているか分からない仕事よりも、食糧として世に送り出される方がよっぽど社会の役に立てると思った。母もきっと息子は世の中の為に死んだと思ってくれるだろう。
K氏はトラックの中でこれは幸せな死に方なのだと確信した。

トラックからK氏は下ろされ、彼はト殺部屋まで運ばれた。一人の男がK氏のもとに近づいてくる。K氏は昔本で読んだことを思い出していた。ト殺は通常、家畜に苦痛を与えないために電流で気絶させてから行うのだ。
K氏の体に冷たい金属が触れたと気付いた瞬間、彼の身体に衝撃が走った。薄れゆく意識の中で彼は母親の幸せを願っていた。

K氏の母親は毎日、仕事が終わるとすぐに病院へと向かった。ある晩首を吊ったK氏を見舞うためだ。K氏は命こそ助かったが、長い間意識が戻らなくなっていた。そして今夜、医師の口から非常な言葉が母親に告げられた。
「息子さんは息を引き取りました」
 不思議なことに、意識を失っている間表情一つ変えなかったK氏の顔は、死の間際だけ笑顔だったという。

 

 

変身 (新潮文庫)

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Twitter社畜議論が盛り上がっているのを見ながら、カフカの変身を読み直したら電波が舞い降りたので産まれて初めてこんなものを書いてしまった。ナンダカハズカシイネ。
※ 尚、実際の牧場やト殺場といろいろ違いますがそれはご愛嬌ということで。
※ 見直しとか一切していないので、誤字や矛盾が多いかもしれません。
※ ミスター防衛線堀江くらは

 

いい加減どっかでカフカの記事を書きたい。

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